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チャリティーサンタの働き方改革 | 第2回NPOによるICTサービス活用自慢大会 大賞受賞記念インタビュー

「第2回 NPOによるICTサービス活用自慢大会」で大賞を受賞し30万円を獲得したNPO法人チャリティーサンタの運営ボランティア青山恭隼さん(左)、代表理事の清輔夏輝さん(右)。青山さんは普段は機械メーカーで会社員をしている。

チャリティーサンタは「サンタを待っている子ども」と「サンタになる大人・企業」をつなげる活動を行うNPOです。クリスマスという社会的認知度が高く、格差が現れやすい行事にフォーカスし「社会全体で子どもを支え合う」気運を醸成していくことを目指しています。

サンタクロースに扮したボランティアが小さなお子様のいる家庭にプレゼントを届ける「サンタ活動」と、お預かりしたチャリティー金(寄付)で困難な状況にある子ども達の支援を行う「チャリティー活動」を行っています。

26都道府県37支部に広がり延べ2万人を超える子どもに特別なクリスマスの夜を過ごしてもらっています。設立から11年目2019年4月には「NPOによるICTサービス活用自慢大会」で大賞を受賞しました。

素晴らしいプレゼンテーションをされた青山さんと清輔代表に、どのようにシステムを活用しているのか詳しく伺いました。

2019年4月に開催された第2回NPOによるICTサービス活用自慢大会での発表資料

膨大な運営業務が支えるサンタ活動

6月からはじまる運営ボランティアメンバーの主な業務は、2,000人のサンタクロース集め、訪問先の子ども5,000人の募集、クリスマス当日まで続くメール対応、どのサンタがどの子どもを訪問するかのグルーピング、訪問先からいただくチャリティー金(寄付)の管理です。

青山 : サンタの存在を疑いはじめた子どもには熟練したサンタ、英語で話してほしい子どもには英語OKなサンタを割り振ります。

このグルーピングは完全に人海戦術で、これまでは全国400名のボランティアメンバーが Excelをひたすら眺めながらコピペを繰り返していました。

膨大な事務作業は運営スタッフの継続率に影響します。子どもが大好きでスタッフになったが事務作業が想像以上に大変だった。クリスマスが終わり達成感は得られたけれど、翌年の継続は難しいという人もいました。

「チーム応援ライセンス」が決め手となった

青山 : 効率化のためにシステムを検討しましたが―般的な顧客管理システムはユーザー数が多いことからコストに見合いませんでした。

2017年にはオリジナルのシステム開発に挑戦しましたが、エンジニアがいる東京エリアでは導入できても全支部での導入は無理でした。

2018年4月にサイボウズのクラウド製品が300ユーザーまで年額9,900円で利用できる「チーム応援ライセンス」が発表されます。

清輔 : 以前から顧客管理システムのプラットフォームとしてkintoneに注目していました。この発表を聞いて、「各支部に1アカウント以上を割り振ることができる!」と皆で盛り上がりました。

現在は270ユーザーで使っています。サイボウズのクラウド製品のセキュアな環境は、訪問先の個人情報を安全に運用できる点も魅力でした。

清輔 : ICTツールに関心が高いボランティアスタッフ4人とNPOの業務効率化支援事務所ht代表でkintoneエバンジェリストの細谷さんとプロジェクトチームをスタートさせました。

チャリティーサンタのメンバーと一緒に、本大会での大賞受賞を喜ぶ細谷さん(左から2番目)

青山 : ソースコードを少しいじって解決できることは4人で勉強しながらやりました。 kintoneとWordPressはインターネットにたくさん情報があります。

特にkintoneは、開発初心者でもわかるコミュニティサイト「cybozu developer network」があります。無料で閲覧できる技術情報共有サービス「Qiita (キータ)」もよく見ました。

メール管理システムのメールワイズ(サイボウズ)、 Excel感覚でkintoneを操作できるkrewSheet(グレープシティ)、CMSシステムのWordPressはプラグインがあり、自力で実装しました。

チャリティーサンタが活用するITシステムの概要図

5月にキックオフを行い9月にはシステムが完成。全国の支部で運用をスタートします。

青山 : 私たちのシステムはハードルが高いと思う方もいるかもしれませんが、プラグインやインターネットに多くあるサンプルのソースコードを活用することで、本職がエンジニアでないメンバーも、開発に加わることができました。

開発期間、青山さんは群馬、細谷さんは兵庫、清輔さんは東京と離れていましたが、オンライン会議やメッセージでやりとりをして構築を進めていきました。

清輔 : 各支部の現場からのニーズを吸い上げ続けていましたので、イメージはできあがっていました。kintoneの標準機能を中心に実現可能かを調査してもらい、認識をすり合わせながら構築することができました。

自分たちでは難しい部分は細谷さんに有償でお願いしました。細谷さんはWordPress やNPOの運営にも詳しくて、とても進めやすかったです。今回のシステム構築のための補助金に関する情報も探してきてくれました。

事務作業を年間350時間削減

青山 : 訪問を希望する家庭、そしてサンタになるボランティアからの応募は毎年3,000件以上あります。

それを人力でコピペするというのがこれまでのプロセスでしたが、Webフォームからkintoneに自動入力できるようにしました。全支部あわせて年間100時間の作業を削減できました。

青山 : 以前は各支部の活動条件に応じてWebフォームを用意していましたが、細谷さんの技術力のおかげで1つのフォームで柔軟に対応できるようになりました。

応募者が地域を選択すれば、その地域専用の表示項目になります。フォームの内容は各支部がkintoneで簡単に設定できるようにしました。

kintoneとGoogleマップを連携させて、サンタの訪問時間を地図で色別に表示されるようにしました。訪問の順番も決めやすくなりました。

青山 : 各家庭からの情報変更は年間700件もメールで連絡があり、そのたびにボランティアが手を動かしていました。

今回はWordPressのユーザー作成機能を活用し、各家庭それぞれにマイページを提供しました。行き先、子どもの特徴、サンタから伝えてほしいメッセージなど、すべてご家庭で変更・編集でき、kintoneに自動的に反映されます。

青山 : それでも発生する個別のメール対応は、kintone とメールワイズの連携で効率化できました。

支部の運営ボランティアメンバーの中には、慣れている Gmail を使いたい人もいるので、Gmailとメールワイズを完全同期させ、送信ボックスに残せるよう工夫し、好きなツールを使える環境をつくりました。これにより年間175時間の業務削減ができました。

クリスマスにサンタが持参する訪問先の情報シートの作成も効率化できました。これまで各支部の運営ボランティアメンバーは、行き先・子どもの特徴・伝えるメッセージをExcelから所定のテンプレートに転記して紙に印刷し、クリスマス当日にサンタボランティアに渡していました。

青山 : 各家庭のマイページからkintoneに入力したデータを無償で使えるGoogleスプレッドシートのテンプレートに挿入できるようにしました。統一したデザインで簡単に帳票が発行できるようになり75時間の作業を削減できました。

清輔 : 経費精算も kintone に入力すれば、Googleスプレッドシートに用意してある各支部の会計報告書テンプレートに自動で入力できるようになりました。

ICTツール導入の本質は、活動の継続性の向上にある

サイボウズ kintone の魅力を語るチャリティーサンタの代表理事の清輔さんと青山さん

2018年のクリスマス終了後、運営ボランティアメンバーにシステムについてアンケートを実施しました。

青山 : 支部の半分が使ってくれたらいい結果だと思っていましたが、9割以上の支部が使ってくれました。

アンケートの結果は、8割が「作業が楽になり、効率化・時間短縮した」、7割が「セキュアなクラウド管理に完全移行できた」との回答でした。また前年の2倍、「貧困家庭の子どもへサンタを届ける」ことができました。

アンケートから見えた今後の課題は、ITが苦手な人も使いやすい画面のデザインです。チャリティー金の事前決済の要望もでました。これまでは各家庭からクリスマス当日にサンタが現金で回収しており管理に気を使っていました。今後は決済サービスと連携しkintoneで管理していきたいです。

顧客管理システムによる効率化で、創造的でワクワクする活動に時間を使える展望も見えてきました。

青山 : 前年にどのボランティアがどの家庭に訪問したか管理できていると、翌年も同一家庭を訪問できる仕組みに活かすことができます。同じサンタが来る安心感をご家庭に提供できますし、サンタも子どもたちの成長を感じることができます。

清輔 : サンタを通じて子どもに伝えるメッセージのあり方も見直せると考えています。現状は、保護者に(サンタを通じて)子どもに伝えたいメッセージをフォームに記入していただき、内容をほぼそのまま伝えている事が多いです。

前年のメッセージを確認しやすくなったので「昨年、子どもとサンタが約束した内容についてメッセージに盛り込んでみては?」といった提案もできるようになります。今後も全国の支部と一緒に質の向上に取り組みたいです。

青山 : ICTツールを本格的に導入していない方々は、チャリティーサンタのシステムはハードルが高いと思われるかもしれません。コストをかけないと顧客管理システムは開発できないのではと思われているかもしれません。

でも、チャリティーサンタも他のNPOと同じで、事務局運営コストを極力少なくするよう努めています。NPO向けに無償もしくは格安で活用できるツールはたくさんあります。業界全体で、それらの活用ノウハウ共有を促進できればと思っています。

清輔 : ICTツール導入といえば、効率化が前面に掲げられがちですが、活動の継続率が高まることも大きな価値だと感じます。仕組み化ができれば属人化せずに継続した活動ができるはずです。

同法人は次のクリスマスに向けて6月から運営ボランティアメンバーを募集しています。10月には当日のサンタボランティアも募集予定です。ICTツールの運用ノウハウを知るために他のNPOの方々が参加することも大歓迎とのことでした。

団体名 特定非営利活動法人 チャリティーサンタ
設立年月日 2008年9月
組織規模 2,342万円(2017年度)
スタッフ数 常勤3名、非常勤1名、ボランティア運営スタッフ約400名(2019年度)
webサイト https://www.charity-santa.com/
事業概要 クリスマスイヴの夜にサンタクロースに扮したボランティアが、小さなお子様が
いる家庭にプレゼントを届ける「サンタ活動」と、サンタ活動の際に家庭からお預かりした
チャリティー金で、困難な状況にある子ども達の支援を行う「チャリティー活動」の2軸で
活動を行う。サンタ活動は、26都道府県37支部に広がり、延べ1万人以上の大人が
サンタになり、2万人を超える子どもに届けてきた。(2019年度)

本記事は「サイボウズ チーム応援プロジェクト」の提供により企画されました。