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80年以上の歴史ある団体のDX推進!外部環境の変化に対応、その裏側に迫る【JASRACのAWS活用事例】[ PR ]

変化の激しい時代において、自団体の取り組みやサービスをどのようにアップデートしていくと良いのか──

そのヒントや可能性を探るため、一般社団法人日本音楽著作権協会の江田さん、水谷さん、株式会社Sun Asteriskの矢田部さんのお三方に「DX推進」という切り口からお話をお伺いしました。

一般社団法人日本音楽著作権協会(通称:JASRAC)の設立は1939(昭和14)年。80年以上の歴史ある団体ですが、今までの自分たちのやり方にとらわれない新たな取り組みにもチャレンジしています。

具体的には、「音楽業界の変化」「音楽クリエイターの活動環境の変化」といった外部環境の変化にも柔軟に対応するため、新たにアジャイルのスタイルで開発を進め、2022年にブロックチェーン技術を活用した楽曲情報管理システム「KENDRIX」(ケンドリックス)を正式リリースしました。

また組織全体のDX推進に関する今後の構想として、KENDRIX開発という新たなチャレンジで培った経験も活かしながら、「今後の可能性をさらに広げていきたい」とシステム部 部長の江田さんは語ります。

本記事は、KENDRIXの話題を軸に「DX推進に向けた開発の裏側に迫っていく」内容になっています。ブロックチェーンなどは読者の皆さんにとってなかなか馴染みのないワードかもしれませんがご安心ください。外部環境の変化にも柔軟に対応し、新しいテクノロジーや新しい開発手法を取り入れながら組織自体も変化・進化を続けようとしているJASRACのエピソードの中には、皆さんの組織・団体にも持ち帰っていただけるヒントがたくさん散りばめられています。少しでもお役に立てれば幸いです。

KENDRIXトップページ

KENDRIXについて(JASRAC提供)

■インタビュイー:
・一般社団法人 日本音楽著作権協会 システム部 部長 江田 哲範さん
・一般社団法人 日本音楽著作権協会 企画部 情報総合課 課長 水谷 英彦さん
・株式会社 Sun Asterisk Business Designer / CXR Evangelist 矢田部 響子さん
■聞き手:
・アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター アカウントエグゼクティブ 上田 圭祐さん

JASRACの設立は1939(昭和14)年。著作権を管理し、作詞家や作曲者が創作活動に打ち込めるようにサポート。

上田 : 本日はよろしくお願いします。多くの読者の方がJASRAC様をすでにご存じかと思うのですが、改めてご紹介いただいてもよろしいでしょうか?

江田 : 「JASRAC」(ジャスラック)という名前は皆さん耳にしたことがあるかもしれませんが、正式名称は、「一般社団法人日本音楽著作権協会」です。

著作権等管理事業法の定めにより、文化庁長官の登録を受け、音楽著作権を管理しています。

具体的には、作詞者・作曲者・音楽出版社などの著作権者と「著作権信託契約」を結ぶことによって、音楽著作権の管理の委託を受けています。そして、音楽を利用する方々に利用を許諾し、その対価としてお支払いいただいた著作物使用料を著作権者に分配する業務を主にしております。

設立は1939(昭和14)年。国内初の著作権管理団体として設立されました。2019年には創立80周年を迎え、もうすぐ85年が経とうというような団体です。職員数は現在500名ほどです。委託者数は2023年6月1日付の契約で2万名を超え(参考:プレスリリース)、つまり日本で2万名の方から音楽の権利をお預かりしています。

音楽の著作権管理の仕組み(JASRACの会社案内から抜粋)

水谷 : JASRACは、作詞家・作曲家らが発起人となって設立した組織です。作詞家・作曲家の意志を直接受けています。作詞家・作曲者の方がちゃんと対価を得て、その対価で生活をして、創作活動に打ち込めるようにサポートしています。

JASRACのミッション(JASRAC提供)

誰もが音楽クリエイターになれる時代。外部環境の変化に対応しながら、サービスのアップデートを目指す。

上田 : 今回の本題である「DX推進」の話に入っていきたいと思うのですが、その前に一つ、音楽クリエイターを取り巻く環境について、最近の状況をお聞かせいただけますか?

江田 : 昔はやはり、音楽をつくる方々というのは一部の限られた方々でしたが、現在は、誰でも音楽クリエイターになれる状況になってきています。誰でもマネタイズできる環境も整ってきています。

一昔前でしたら、大手のレコード会社と契約しないと、つくった音楽を日本中の方々に聞いてもらえなかった状況でした。しかし今では、例えばSNSや音楽サブスクリプションサービスに自分でアップすれば、レコード会社などを介さなくても、世界中の方々に聞いてもらえるチャンスが広がっています。音楽クリエイターの数もどんどん増えてきています。

水谷 : そのような時代の変化の中で、「JASRACのサービスをどのようにアップデートしていくと良いのか?」「JASRACのサービスをどうしたら特に若い方々に届けることができるのか?」ということで、2020年12月から2021年1月にかけて、個人の音楽クリエイターの方々にヒアリングを実施しました。

JASRACと契約されている方々だけではなく、JASRACとは契約していない方々のお話もお伺いしました。後者の皆さんは、基本的に個人で、事務所やレコード会社に所属せず、ネットを主戦場にして楽曲を発表されていらっしゃる方々です。

ヒアリングの結果として、課題抽出ができ、その中でも特に優先度が高く技術的に対応できそうなものを洗い出しました。これがKENDRIX開発のきっかけとなりました。

インタビュイー:一般社団法人 日本音楽著作権協会 システム部 部長 江田 哲範さん

インタビュイー:一般社団法人 日本音楽著作権協会 企画部 情報総合課 課長 水谷 英彦さん

ヒアリングを通じて判明した、個人の音楽クリエイターが抱えていた課題とは?

上田 : KENDRIX開発のきっかけとなった「音楽クリエイターの方々へのヒアリング」について、詳しくお聞かせいただけますか?

水谷 : 先ほど、ヒアリングを通じて抽出した課題の中から、特に優先度が高く技術的に対応できそうなものを洗い出したとお伝えしましたが、2つありましてそれぞれお話します。

1つ目が、「楽曲の無断利用やなりすまし公開への対抗手段がない」という課題です。

具体的には、「音楽クリエイターの方がご自身でつくってSNSに公開した楽曲を、第三者が自分の曲として公開しているのを目の当たりにした」「配信するつもりのない、どちらかというと配信したくない昔の楽曲を、第三者が勝手に音楽サブスクリプションサービスで配信していて誰もが聞ける状態になっていた」といった事例を、ヒアリングの中で複数のクリエイターの方からお伺いしました。

このクリエイターの方々はご自身で活動されていて、事務所やレコード会社に所属していない方が中心でしたので、そういったトラブルに巻き込まれた時にサポートしてくれる人がいないというのが現状でした。また、楽曲の制作プロセスに立ち会ってくれている方もいないため、「自分がつくった楽曲であること」を証明しようとすると、とても心もとないという声もお聞きしました。

2つ目が、「既存の著作権管理システムが複雑で利用ハードルも高い」という課題です。

JASRACに限って言えば、著作権の管理を委託するという契約のために、音楽クリエイターの方々には印鑑証明書や戸籍謄本を提出していただいたり、記入していただく必要書類が多かったりという状況でした。またそれらが紙のみでの対応で、オンラインでは契約できない状況でした。そういった現状に対して、非常に近寄りがたく、とっつきにくいという声をいただきました。

上田 : この2つの課題を「DX推進」で解決しようとされたのですね。紙ベースでの登録作業はデジタル化できればユーザーの利便性も大きく向上しそうですね。一方で自分が作った曲であることを証明するには単純なデジタル化だけでは難しそうなイメージがあります。

水谷 : はい。1つ目の課題に対しては「ブロックチェーン存在証明の提供」という形で、2つ目の課題に対しては「誰にとってもわかりやすく簡単なUI/UXの提供」という形で対応できるのではないかと考え、これらの課題を解決するために「KENDRIX」を開発しました。

上田 : なるほど、ありがとうございます。

では、ここから先はさらに深掘りして、「KENDRIX開発の際のポイント」「開発スタイル」「ブロックチェーン技術を活用することによるKENDRIXの特徴」などについても詳しくお伺いしていければと思います。

ヒアリングを通じて抽出した2つの課題と、それぞれの打ち手(JASRAC提供)

「最小限でつくって、検証しながら、ユーザーにちゃんと使っていただけるものを出していく」という開発スタイル。

上田 : KENDRIX開発の際のポイントについてお伺いできればと思います。

江田 : まず、コストの観点から言うと、サーバーレスで初期費用を抑えられるようにしました。

インフラのエンジニアも最小限でできるところもポイントかなと思います。実はなるべく最新のものをどんどん使うというよりは、多くの企業が採用していてインターネット上で豊富に情報を得られる構成であることをポイントにしています。モチベーションが上がるという観点で、エンジニアが学びたい構成であることも意識しています。

あと、AWSの特徴の一つであるインフラを構築する際にコードで書ける仕組みを採用して、複数人での作業がしやすいようにしています。

上田 : この流れで、実際にKENDRIXをシステム開発された株式会社Sun Asteriskの矢田部さんにもお話をお伺いできればと思います。まずは会社紹介をお願いできますでしょうか?

矢田部 : Sun Asterisk(サンアスタリスク)は、「本気で課題に挑む人たちと事業を通して社会にポジティブなアップデートを仕掛けていくこと」をミッションに掲げています。

デジタルの領域で、何かつくりたいものがある企業とコラボレーションしながら、その企業の中で足りないピースを我々で埋めて、一つのチームとして事業開発を行なっています。ただ決められたものをつくるだけではなくて、もっと前の段階の、「なぜそれをつくるのか」「どうやってつくっていけば、事業として成長していくのか」というところから我々も一緒に考えています。

上田 : 今回JASRAC様と一緒にKENDRIXを開発されていますが、どんな様子でしょうか?

矢田部 : KENDRIXでは、「最小限でつくって、検証しながら、ユーザーにちゃんと使っていただけるものを出していく」というスタイルで開発を進めています。

普段、「これまではかっちりガチガチにプランしてから開発してきた」という企業とご一緒することが多いのですが、こういった最小限でつくっていくアジャイルのスタイルは、JASRACさんにとっても新しいケースなのかなと思っています。しかしそういった中でも、JASRACさんには本当に柔軟な意思決定をしていただいています。

この柔軟な進め方によって、JASRACさん内でも「新しいことに取り組む」ということが今後さらに増えたり、このKENDRIXの取り組み自体が、それこそ音楽業界の中の考え方や色々な取り組みに対しても、良い影響を与えてくれるといいなと思っています。

上田 : JASRAC様のような80年以上歴史のある団体からすると、このようなアジャイルのスタイルはやはり新しいですか?

江田 : そうですね。今までは事前に計画をガチガチに決めて、その上で開発するといったウォーターフォールのスタイルでした。そんな中で、「こういう風なやり方(=アジャイル)があるんだ」というところを、私たちは今、目の当たりにしています。

さらに今回、通常であれば開発の方には要件定義から入っていただくところを、今回はその背景にあるコンセプトを検討する段階から入っていただきました。この経験も私たちにとって新鮮でした。私たちが気づかないところまで気づいてくださったりと、非常に良いパートナーと仕事ができています。

インタビュイー:株式会社 Sun Asterisk Business Designer / CXR Evangelist 矢田部 響子さん

データをリアルタイムで可視化・分析しながら、ユーザーに必要な機能を見極める。

上田 : KENDRIX開発について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?

矢田部 : 開発に際して、「Amazon QuickSight」や「Amazon SageMaker」を導入しています。

Amazon QuickSightを活用することで、ほぼリアルタイムでKENDRIXのデータが可視化され、分析することができています。そしてこの可視化されたデータを通してユーザーの動きも見ながら、「KENDRIXにはこの機能が今必要」「この機能はまだ必要ない」などを判断しています。

通常なら、JASRACさん側のKENDRIXの管理者画面を開発して、管理者画面上でデータを可視化できるようにするということになると思います。しかし今リソースをどこに投入しなきゃいけないのかというと、ユーザー向けの機能を追加するところに注力していますので、Amazon QuickSightを活用することで本当に知りたい情報がリアルタイムに確認できているというのは非常に助かっています。

また、Amazon SageMakerでは色々なことができるのですが、今回はデータベースにあるものを可視化するという使い方をしています。KENDRIXの新たな機能として「プロジェクト機能」(参考①/参考②)というものが最近追加されたのですが、Amazon SageMakerを活用して検討しました。

上田 : 多くの場合、管理者画面の開発って要件から入ってしまい、どうしても「帯に短し襷に長し」になってしまう気がします。しかしそんな中でも、必要なものとそうでないものをしっかりと精査されていらっしゃるのはとても良いと思いました。そして、その上で「新しい機能の追加を試してみよう」というのは非常にアジャイルな感じがしました。

“Amazon QuickSight は、お客様向けに毎週数百万のダッシュボードビューを提供し、エンドユーザーがより適切なデータ駆動型の意思決定を行えるようにします。”(AWSサイトより抜粋)

ブロックチェーン技術を活用した存在証明機能を備えることで、ネットの世界に安心して楽曲を公開できるように。

上田 : 「ブロックチェーン」というワードも出てきましたが、ブロックチェーン技術を活用することによるKENDRIXの特徴についてお聞かせください。

水谷 : 「ブロックチェーン技術を活用した存在証明機能」というものがKENDRIXに備わっています。

KENDRIXに音源ファイルを登録していただくと、「音源ファイルのハッシュ値」「タイムスタンプ」「ユーザー情報、タイトルとバージョンの情報」がブロックチェーンに登録されます。つまり、「誰が、いつの時点で、その音源ファイルを所有していたのか」という事実を、ブロックチェーン技術を活用して、客観的に証明できるということです。

また、ブロックチェーンに登録された情報を表示する「存在証明ページ」も用意しています。公開という設定にしていただくと、「公開用URL」が発行されます。音楽クリエイターの皆さんが楽曲を公開される際に、この存在証明ページの公開用URLも添えることで、「その楽曲の著作者情報や登録日時」を誰もが閲覧できる状態になります。

KENDRIXにちゃんと登録されていることが伝わるだけでも、楽曲の無断利用やなりすまし公開といった不正利用の抑止力になるのではないかと考えています。実際、「ネットの世界に安心して楽曲を公開できる」というところに共感くださっている音楽クリエイターの皆さんにKENDRIXをすでにご利用いただいています。

また、1つの曲ができるまでに、「デモ」「インスト」「完パケ版」など色々なバージョンの音源がありますが、完成楽曲だけでなく、制作途中の段階から音源ファイルを記録していただくことを推奨しています。そうしていただくことで、自分の作品と酷似する楽曲を発見した際に、「自分の方が先にこういう楽曲をつくっていました」ということを証明できると考えています。

存在証明(ブロックチェーン)について(JASRAC提供)

JASRACでは、ブロックチェーンに関するアニメーション動画もつくり、音楽クリエイターに広く分かりやすく伝わるように工夫している。

上田 : なるほど。すばらしいブロックチェーンの使い方ですね。デジタル技術をうまく活用してこれまでと違ったデータの使い方をすることでユーザーの利便性向上を実現する。DXのお手本のようなお話かと思います。KENDRIXの他の特徴についてもお伺いできますか。

水谷 : はい。「eKYC(オンラインでの身元確認機能)」も実装しています。

これは任意なのですが、ご自身の個人情報をKENDRIXに登録していただくと、サードパーティーのeKYCサービスを使って音楽クリエイターの方々の身元確認ができるようになります。これにより、本人認証済みのKENDRIXユーザーが存在証明付きの楽曲情報を、KENDRIXと連携する様々なサービスに展開できるようにしたいと考えています。

上田 : こういったデータ連携もDX推進のよい取り組みですね。

身元確認(eKYC)について(JASRAC提供)

KENDRIXのユーザーであることがクリエイターの基本的な属性になるように、今後も機能を充実させていきたい。

上田 : 最後に、今後見据えていることや今後の構想などについてお伺いできればと思います。

水谷 : KENDRIXは、ブロックチェーン技術を活用するということも含めて、「JASRACのイメージをリブランディングする」ということと、「著作権管理サービスのDX化」がテーマです。

KENDRIX上で音楽クリエイターの皆さんに、存在証明だけではなく身元確認も行なっていただくことも推し進めることで、「音楽活動がしやすくなる」「楽曲を発表できる場が増える」など、KENDRIXのユーザーであることがクリエイターの基本的な属性になるように、今後も機能を充実させていきたいと考えています。

KENDRIXのコンセプト・ビジョン(JASRAC提供)

江田 : 開発という観点でいうと、KENDRIXはイチからつくることができているので自由に動けているのですが、既存のシステムは色々な制約がある中でやっていかなくてはいけません。

現在、いくつかのシステムはAWSに構築させていただいています。しかし残念ながら、オンプレミス環境からクラウド環境に移行するところまでで、AWSが持っている様々なサービスをまだ最大限活用できていないというのが現状です。

組織として次のステップに進むためにも、KENDRIXだけではなく足元のシステムも進歩させないといけません。クラウドなど色々なことを勉強しながら、今後の可能性をさらに広げていきたいです。

上田 : 80年以上の歴史を誇るJASRAC様がアジャイル開発に挑戦されたり、登録のデジタル化に留まらずデジタルデータ技術を活用した著作権管理を進められ、ユーザーの利便性を向上したというのはDX推進をお考えの他の団体様にもとてもよい刺激になるのではないかと思います。

デジタル技術の部分は我々AWSもサポートしていきますが、このDX推進成功の鍵はこれまで多くの音楽クリエイターをサポートしてきたJASRAC様がユーザーにとってよりよいものを作りたい、そのためには自分たちが変わることにも積極的にチャレンジするといった姿勢にあるのではないかと僭越ながら感じました。

江田さん、水谷さん、矢田部さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

聞き手:アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター アカウントエグゼクティブ 上田 圭祐さん


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本記事は「アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社」の提供により企画されました。