いままで、「AWS活用事例」として非営利団体にインタビューを行ない、さまざまな事例を皆さんにお届けしてきましたが、今回はNPOでの経験をお持ちのAWS社員2名のお話をお届けします(*)。
(*)AWS:前者はアマゾン ウェブ サービス (AWS) のことを指し、後者はアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社のことを指しています。
それぞれの「ご自身のNPOでの経験」を伺いつつ、おふたりとも非営利セクターのお客様専任としてお仕事をされているということで、それぞれが考える「AWSだからこそできるNPO・非営利団体への貢献のかたち」についても伺いました。
非営利セクターの皆さんに日々向き合いつつ、ご自身もNPOでの経験を持っているおふたりだからこそわかる「NPOにおけるITサービス活用の理想と現実」といったものの一端も見えてくると思います。
本記事は、NPO・非営利団体の皆さんのみならず、NPO・非営利団体に特化したSaaSサービスの提供を検討している事業者の皆さん、そして非営利セクター全体を一緒に盛り上げていきたいとお考えのIT業界の皆さんにもお読みいただきたい内容です。皆さんにとって少しでもヒントになれば幸いです。
(*)冒頭の写真で、左が上田さんで、右が須藤さんです。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター アカウントエグゼクティブ
1978年生まれ。中央大学理工学部応用化学科学士卒業。AWSでは非営利セクターのお客様専任の営業担当。2015年から非営利セクターのお客様を担当をしている非営利セクター担当営業の専門家である。
自身も2008年6月から高校生、大学生のキャリア支援と地方創生を行うNPO法人鴻鵠塾(こうこくじゅく)の創業者として15年間で約1万人のキャリア支援と約50の地方創生のプロジェクトを実施。2021年1月に2代目に継承済み。また現在未就学児や小学生の学力格差を無くすNPO法人キッズゲート(登記中)の創業メンバーとしても活動中である。
須藤 裕也さん
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター技術統括本部 アソシエイト ソリューションアーキテクト
1999年生まれ。一橋大学商学部経営学科学士卒業。AWSでは非営利セクターのお客様専任のソリューション アーキテクト(技術)担当。自身も学生時代に、人口減少のため不振に陥っている商店街の再活性化を目指すNPO法人 くにたち富士見台人間環境キーステーション(KF)において、くにたち野菜と地域物産の店「とれたの」の運営に従事。その後、2022年にAWSに入社。技術的・ビジネス的な側面からお客様のクラウド活用支援をおこなっている。
上田さんのNPOでの経験
──本日はよろしくお願いします。まずは「ご自身のNPOでの経験」についてお伺いできればと思います。上田さんからお聞かせいただけますか?
上田 : 私は2つございまして、一つ目は、NPO法人鴻鵠塾(こうこくじゅく)での取り組みです。わたしが創設者で2008年から活動を続けており、一言でいうと、高校生と大学生のキャリア支援をする団体です。
社会人も学生も、一人ひとりがみんな、「じぶんの頭で考えて、自律的に動ける人間になっていくと、世の中が良くなっていくのではないか」と活動を続けております。
鴻鵠塾の公式サイトのトップページ(https://koukokujyuku.org/index.html)
鴻鵠塾(こうこくじゅく)の活動は大きく3つあります。
一つ目は、学生向けの勉強会です。社会人をお呼びして、「働くってどういうことなのか?」「現場ではどんなことをやっているのか?」「どんな想いを持って働いているのか?」など、リアルな姿を学生に届けながら、視座を高めて、視野を広げていただくことができる機会を提供しています。
二つ目は、探求型のプロジェクトです。実際に存在する課題に対して、学生が、じぶんたちで実行できることの中から解決案を提示して、じぶんたちで実際に実行していきます。やはり自律的な人材になるためには、勉強会だけで完結するのではなかなか難しいと思っており、小さくても良いので一つ成功体験をして、自信を持ってじぶんで一歩を歩めるようにと考えています。
三つ目は、都立高校でのキャリア教育の授業です。出前授業のようなかたちで、過去の勉強会やプロジェクトに参加した大学生の中から、就職活動が終わった内定者をお呼びして、「高校時代にやっておいて良かったことは?」「大学ではどんなことを行なっていたのか?」「将来はなにを目指していくのか?」などをお話いただいています。
上田さんと10名の社会人ボランティアで企画をした新潟の大学生200名への勉強会(写真中央:当時の上田さん)
──「ご自身のNPOでの経験」の二つ目についてもご紹介をお願いします。
上田 : 二つ目は、NPO法人キッズゲート(登記中)で、創業メンバーとして活動しています。立ち上げて1〜2年ですので、そこまで大きな活動はまだできておりませんが、未就学児や小学生の学力格差を無くすための取り組みを行なっております。
──「NPOの活動の中で使用されているITサービス」についてもお聞かせいただけますか?
上田 : 鴻鵠塾(こうこくじゅく)で、いまも使用しているSaaSサービスをご紹介します。
たとえば、CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)のサービスを使っています。さきほどご紹介した勉強会を毎月開催しておりまして、参加者管理やその後のデータ分析などに活用しています。
また、支援者管理のサービスも使っており、寄付の領収書は紙ではなく、データで出力してメールなどでお送りしています。
そのほか、会計ソフト、チャットツール、クラウドストレージ、WEB会議システムなども使用しています。
2018年に開催した「鴻鵠塾」創設10周年イベントの記念写真(写真中央左:当時の上田さん)
須藤さんのNPOでの経験
──つづいて、須藤さんの「ご自身のNPOでの経験」についてもお伺いできればと思います。
須藤 : わたしは大学時代の4年間、NPO法人 くにたち富士見台人間環境キーステーション(以下、KF)というNPOに所属しておりました。
東京都内にある国立市富士見台地域の人々のつながりをつくり、まちを元気にするべく、商店主や学生・市民・行政が一体となって活動している団体です。富士見台地域の商店街を中心に取り組みを続けています。
KFは商店街を地域コミュニティの拠点と考え、商店街の空き店舗を利用して、コミュニティカフェ、地元野菜と地域物産の店、多目的ホール、雑貨屋、シェア工房を運営し、フリーペーパーの発行やローカルヒーロー、その他商店街との連携事業などを行なっています。
その中で、わたしは主に地元野菜と地域物産の店を担当しておりました。
KFの公式サイトのトップページ(https://www.human-environment.com)
KFの特徴の一つとして挙げられるのは、大学生が運営していることです。
いわゆる大学のサークルのようなものをイメージしていただくとわかりやすいと思います。国立市ということもあり、基本的にメンバーは一橋大学の学生が多く、「地域活性化に貢献したい」「事業を運営する機会に携わりたい」など、参加する学生のモチベーションもさまざまです。
わたし自身は国立市とは、中学、高校、大学と約10年以上の関わりがあり、非常に愛着のある街でした。そんな愛着ある街を盛り上げていきたいという想いと、また一方で、ビジネス的な経験も積みたいという想いと、その両方のモチベーションでKFの活動をしておりました。
地元野菜と地域物産の店の公式サイトのトップページ(https://toretano103.jimdofree.com)
──「NPOの活動の中で使用されていたITサービス」についてもお聞かせいただけますか?
須藤 : さきほどの上田の話と重複する部分ではありますが、KFでは会計ソフトを導入していました。
わたしが入った頃は会計ソフトはインストール型で、店舗のバックルームにあったパソコンにインストールされていました。しかし、パソコンの老朽化が激しかったこともあり、SaaSのものに切り替えることにしました。
そのほか、ここまでのお話で登場していないものでいいますと、グラフィックデザインツールなども使用していました。
地元野菜と地域物産の店での様子(写真右:在籍当時の須藤さん)
NPO経験を持つふたりが「あったら良かった」と考える、NPO向けのITサービスとは?【上田さんの場合】
──NPO向けに「こんなITサービスがあったら良い/良かった」「当時は導入していなかったけど、いまだったら、こんなITサービスを導入する/していた」と思われているものってありますか?上田さんからお伺いできればと思います。
上田 : たとえばファンドレイジングに関しては、決済が多様化している世の中ですので、その多様化の流れに対応していただけるマルチ決済寄付ツールのようなものがあると嬉しいです。
それ以外にも、ユーザーがそれぞれログインして個別に利用できるような会員ページやマイページを簡単につくれるサービスがあるとありがたいです。実際に過去には、鴻鵠塾でも既存のサービスを活用しながら学生・社会人向けのマイページをつくることも検討したのですが、投資対効果の観点からつくることを断念した経験があります。
──もしほかにもありましたらお聞かせいただけますか?
上田 : ほかには、NPOや非営利団体も情報発信をしていかなければいけませんので、デジタルマーケティングのサービスも欲しいです。
もちろんエンタープライズ向けのサービスはすでに存在します。たくさんの機能も備わっており、機能が充実していること自体は良いことなのですが、一方で、そのサービスや機能を使いこなすには当然、専門知識やスキル、経験なども必要になってきます。加えて、機能が充実したサービスを導入しようとすると、やはり膨大な費用も発生してしまいます。
多くのNPOや非営利団体にとっては、そのようなサービスを使いこなすこと自体、ハードルが相当高く、運営側にかかる負荷も大きいと思います。その上、その膨大な費用を負担するのもなかなか難しいと思います。
ですので、ひとつのアイデアではありますが、理想としては、NPOや非営利団体にとって本当に必要な機能だけがシンプルかつコンパクトに備わりながら、しかも手頃な価格で導入できるような、デジタルマーケティングのサービスがあると嬉しいです。
いまお話したことは、NPOや非営利団体にとって、デジタルマーケティングのサービスだけに関わらず、ほかのITサービスにも共通して言える話かもしれません。
NPO経験を持つふたりが「あったら良かった」と考える、NPO向けのITサービスとは?【須藤さんの場合】
──つづいて、須藤さんはいかがでしょうか?
須藤 : いわゆる「BIツール」と呼ばれるような、メンバーそれぞれが得たいインサイトを得られる分析ツールです。
そもそも当時はBIツールを導入しようという発想もなかったですし、そもそも予算も限られていましたので、なるべく無料範囲内でと考えると導入は厳しかったです。
しかし、いま考えると、「あると良かった」と思うツールの一つです。
たとえば売上の実績データ一つとっても、メンバーの役割や立場によって、見たいデータや欲しいデータは異なります。そんな中で、特定の専門スキルに依存せずとも、直感的にわかりやすいインターフェースで操作しながら、メンバーそれぞれが得たいデータやインサイトを可視化できるツールの存在は、NPOや非営利団体にとって大きいのではないかと思います。
NPO経験を持つふたりが考える「AWSだからこそできるNPO・非営利団体への貢献のかたち」とは?
──最後に、NPOでの経験をお持ちのおふたりが考える「AWSだからこそできるNPO・非営利団体への貢献のかたち」についてお伺いできればと思います。上田さんからお聞かせいただけますか?
上田 : わたし個人として考えている夢をお話します。
わたし自身もNPOに長く関わってきた中で、NPO・非営利団体の弱点だと感じる点は大きく2つありまして、一つはお金の面で、もう一つはITに詳しいスタッフがなかなかいないということです。
社内を見渡してみると、「非営利セクターをお手伝いしたい」と思っている社員はじつは潜在的に多いのではという印象も持っておりまして、このような人達がNPO・非営利団体にプロボノ(*)のようなかたちで参画できる仕組みをつくりたいと思っております。
(*)プロボノ:ビジネスなどで培った自分のスキルを生かして、NPOや地域社会をサポートしていく活動。《出典:【書籍】プロボノ―新しい社会貢献新しい働き方(2023年12月22日閲覧、NPO支援コレクション)》
あとは、AWSだけではなくて、日本のIT業界がみんなでワンチームになって、「社会貢献をみんなでやろう」という機運も高めていきたいと思っております。
──つづいて、須藤さんのお考えもお聞かせいただけますか?
須藤 : わたしとしては2つのパターンがあると思っています。
一つは、NPO・非営利団体に直接AWSがサービスを提供するのではなく、NPO・非営利団体向けのSaaSサービスをAWSの上につくっている事業者を技術的に支援するというアプローチです。
NPO・非営利団体に特化したSaaSサービスはあまり存在しないと思いますので、もしそういったサービス展開を検討している事業者がいらっしゃれば、わたしたちが支援させていただくことで、間接的にNPO・非営利団体に貢献できるのではと考えております。
もう一つは、システムの構築について、わたしたちに直接ご相談いただく方法です。
NPO・非営利団体の活動・業務の中には団体特有のものもあり、もし仮に、とあるSaaSサービスを使っていたとしても、「この機能が欲しい」「じぶんたちの業務に合った専用のシステムをつくりたい」といったご要望も出てくるのではないかと思っています。
AWSには200以上のサービスがあり、自由に思い通りに組み合わせていきながらシステムをつくっていくことが可能です。わたしたちに直接ご相談いただくことで、コスト要件等も比較した上で、最適な構成・サービスをNPO・非営利団体の皆さんにご提案いたします。
──上田さん、須藤さん、本日はありがとうございました。
NPO・非営利団体を支えるAWSクラウドサービスが気になった方はぜひ、AWSの日本の営業担当窓口にお問合せください。
本記事は「アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社」の提供により企画されました。