子育てを取り巻く様々な社会問題を解決する事業を行ってきた認定NPO法人フローレンスが2016年春に立ち上げた「赤ちゃん縁組」事業。妊娠に悩む妊婦に寄り添い、子育てをしたい夫婦に赤ちゃんをマッチングする過程では、安全性の高いシステムが必要でした。そこで選ばれたのがサイボウズのkintoneとメールワイズです。
既存の事業で多忙な情報システムの手を煩わせずに現場の担当者が1カ月半でシステムを構築できたという事例を、赤ちゃん縁組事業部の宇野澤ちはるさんにお話しいただきました。働き方革命事業部の陣内一喜さんによるサイボウズOffice、kintone、メールワイズ活用についての総括もあわせてお届けします。
せっかく授かった命、元気に生まれて大きくなってほしい
赤ちゃん縁組事業の宇野澤です。2児の母でワーキングマザー歴8年目です。女性がいきいきと働く社会を実現したくてフローレンスに入りました。
システムに携わってきたわけではない、そんな私がkintoneとメールワイズでシステム構築をした流れをご紹介します。
赤ちゃん縁組事業部は、特別養子縁組制度を活用したマッチングする事業です。そもそも赤ちゃんの虐待死をなくしたいというところからスタートしています。
赤ちゃんは、実に2週間に1人なくなっています。
どんなことがあって虐待死しているかというと、そもそも望まない妊娠があります。背景には貧困、社会的孤立、精神障害、性犯罪被害など、やむにやまれない事情があるのです。
せっかく授かった命には、元気に生まれて大きくなってほしいという思いがあって赤ちゃん縁組事業が生まれました。望まない妊娠で生まれてきた赤ちゃんを、特別養子縁組制度を使って子を望む夫婦に託すという事業です。
生みの親さんからの妊娠相談をもらって安心して安全に赤ちゃんを産んでもらうサポートをします。一方で育ての親さんには、親になる心構えを研修して、赤ちゃんを委託し育児のサポートをするという事業モデルです。
センシティブな個人情報をいかに管理するか
事業の成功には、「生みの親⇔フローレンス⇔育ての親」との膨大な個人情報の管理が肝となります。
実親、育ての親それぞれの家族の状況、生い立ち、病歴そういったところまでカウンセリングします。ヒアリング、電話、同行の履歴を全部管理します。いろんなセンシティブな情報を扱っていると想像できるかと思います。
まず生みの親さんから、メール・電話などで相談がきます。そもそも病院にいったことがないという方や健康保険証を持たない方もいるので、検診に同行したり、行政にいったりと出産までサポートするのが生みの親サポートです。
一方で育ての親さんのほうですが、特別養子縁組は裁判で審判を行います。そこにいたるまでは実親さんに親権があるので、複雑な手続きがあります。どうして託すことになったのかという経緯はフローレンスとしても書類を作成し、裁判のサポートをします。
センシティブな情報、プロセス管理とチーム内共有、致命的なリソース不足と3つの課題があるなかで、システム構築に与えられた期間は約2ヶ月とすごく短くい時間でした。
「とりあえず作って。最悪でExcelでいいから」といわれましたが「Excelでどうやってつくるんだろう」と思うなか、kintoneを検討しました。
2015年12月から検討開始してサイボウズの導入相談cafeでいろいろと相談させてもらいました。2016年1月、2月でシステム構築をし、1ヶ月の運用期間を行い 4月から事業を開始できました。
まず、センシティブな内容に関してどういうふうに構築したからよいのかという課題がありました。
妊娠相談に寄せられる内容は、「誰の子か分からない」「家庭のある人の子を妊娠した」「性被害にあって妊娠した」など、中絶したいけど、どうしようもないところまできてしまったという方が多いのです。
育ての親にも、不妊治療でこどもをもてなかったという歴史、ご両親とどういう関係をもってきたかという生育歴、資産状況、お金の使い方、価値観、将来ビジョンまで聞いていきます。
情報が洩れてしまったり、埋もれてしまったりしてはいけないのです。
センシティブな内容をいかに扱うかという課題の解決として、kintoneのスペース機能を利用することにしました。kintoneのなかに赤ちゃん縁組事業部しかアクセスできないスペースをつくりました。
さらに妊娠相談と育ての親さんからの問い合わせ対応のアプリをつくりました。ここにアクセスできるのは実務に関わるもののみにしています。マネージャーも代表の駒崎も問いあわせアプリには入れないようにし、本当に知るべき人しか入れないようにしています。
圧倒的なリソース不足、少ない時間で構築できる?
次にプロセス管理とチーム内共有が課題でした。例えば、育ての親さんに関しても審判確定するまで全部で15くらいステップがあります。どのフェーズにどの方がいるのかすぐにわからないといけません。
kintoneは、カスタマイズがすごく容易です。業務フローにあわせてプロセス管理を自分たちで設定することできて、すごく便利でした。必要な情報もすぐ抽出できます。
チーム内共有というところでは、ステータスとコメント欄の活用があります。Aさんに対してこんなことしよう、あんなことしようとチームで意見を出し合えます。内容も一目瞭然でわかります。新しいメンバーが入ったり、休んだりしたときも、チームで共有しやすいのです。
直感的ユーザーインターフェースで楽しく構築
3つめの課題として、圧倒的なリソース不足がありました。まずシステムのチームに相談したのですが、「無理です。手があくとしたら3月か4月だな」と。それを待っていては事業がスタートしてしまいます。
この課題もkinotneの直感的に作成可能なユーザーインターフェースに助けられました。
私ができたのはExcelの帳票をイメージすることでした。この人のこういう情報を管理したいというのができればkintoneでは、クリック&ドラッグで作成できるので、やっていると楽しいんですね。
これは選択式にしようとか、言葉を変えようとか、運用してみて変更したい点は、会議中でもその場ですぐに変更できます。事業部で使用するメンバーが意見を出し合いながら作れるというのが、人的リソース不足のなか短期間でシステム構築ができた要因です。
すごく便利なkintoneですが、さらにメールワイズを組み合わせました。
フローレンスは、メール文化で普通の人でもccのものもいれると100通くらいメールが来るんです。
せっかくkintoneで情報を集約するので、問い合わせメールの管理にはメールワイズを利用することにしました。
メールワイズは、チームで共有ができて対応履歴がわかります。いま処理中のメールが何件あるな、担当メールがあるなとか、一目瞭然になるのです。いったん担当者をつけると、AさんからくるとAさんからきていますよと通知もきます。
メールに直接コメントがかけるので指示も出せます。メールで指示を書くと「Re:Re:」となるけれどメールワイズはそういうのがありません。
しかもkinotoneと連携できるんですね。いちいちアプリケーションを検索する必要がないのです。Aさんのやりとりは全部Aさんの画面で集約できます。kintoneの画面からメールを送ることができるので作業効率もアップします。メールがどこいったかわからないということがないのです。
一カ月半で全部つくれた!
こんな感じでkintoneとメールワイズを使ってシステム構築をしたら、運用体制として2カ月与えられましたが、一カ月半で全部つくれました。
アプリは10個つくりました。説明会参加者管理、活動履歴、面談履歴、必要書類を管理するアプリなどです。構築に時間を短縮できたので、その分、仮運用に時間を費やすことができました。そこで修正をたくさん加えられて、この4月をむかえました。
フォームクリエイターというサイボウズスタートアップスさんのサービスで、webフォームをつくり、問合せ窓口から、生みの親と育ての親をふりわけています。メールワイズは、妊娠ホットラインという実親相談カルテと、育ての親リストというkintoneアプリと連携しています。
結果、事業スタートはスムーズでした。問い合わせも4月からたくさんきていますが、対応漏れもなく状況も一覧でわかります。チーム共有もしやすく想定どおりの構築ができています。
こんな感じで私のほうで作って、実際に運用しているわけですが、働き方革命事業部の陣内からkinotne、メールワイズ、Officeの総括の話をさせていただきます。
kintoneすげえ!! システム担当の発展的解散!?
「NPO法人のためのクラウド活用セミナー」で発表する赤ちゃん縁組事業部の宇野澤ちはるさんと働き方革命事業部の陣内一喜さん。
宇野澤さんの期待にこたえられなかったシステム担当の陣内です。赤ちゃん縁組事業は本当にいい事業なのですが、人的リソースがなくて、どうしようというのがありましたが、kintoneに助けられています。
あえて評論家チックに、この営みを振り返ってみます。kintoneが非常に優れていたのは当然ながら、うまくいったのには、いくつかポイントがあると思います
まず、こんな帳票が必要だと、かなりの部分を宇野澤のなかでイメージできていて、kintoneというツールで迅速に現実化したことです。
また業務の属性がkintoneとすごく相性がよかったのかなと思っております。
赤ちゃん縁組事業においてはプロセスの管理、ステータス管理が肝です。いったん記録したデータは積み上げていくタイプのデータモデルですが、問い合わせ管理とかカルテ的なものにkintoneは強いと思います。
かなり少ない人数で、少ない時間のなかで意思決定も早くスピーディーにできましたが業務側が自分たちのペースで試行錯誤できたのもポイントです。
システム担当が入ると業務のことを100%理解しているわけではないので、社内であっても伝言ゲームがおきるなどして、スピードが落ちることもあります。私たちがいないことで非常に早く作れました。
私をふくめてシステムチームの声としては「kintoneすげえ!!」。
社内のシステム担当は、「もしかして仕事がなくなるんじゃないか」という危機感もあるのですけれど、フローレンスはシステム会社ではないのでシステムの仕事はコストです。
究極的にはシステムの仕事がなくなって、社会問題の解決により多くのリソースを充てられる方が組織としては嬉しいわけです。kintoneは、システム担当の発展的解散の可能性も秘めた非常に破壊力のあるプラットフォームなのではないかと期待を寄せています。
ここまでがkintoneの振り返りですが、サイボウズOfficeとまとめて今後どうしていくかを話させていただきます。
より広く、深く使い、ミッションを遂行します
まずサイボウズOffice についてです。いまオフィスに常勤している本部スタッフが主に使っていますが、保育園など施設もいろいろあるので、現場と本部のコミュニケーションを促進していくことをやっていきます。
もう一つは、kintoneのなかで赤ちゃん縁組事業ではタスク管理が行われていますが、おそらくタスク管理はOfficeのスケジュールと連携できるとよりスムーズではないかと思うのです。プログラミングしないとできないようですが、トライしてみたいと思います。
赤ちゃん縁組の大成功により、フローレンス内で「私も使いたい」とkintoneバブルがきています。どんどん基本的には使ってもらいます。
いままで、セールスフォースしか選択肢がなかったんですね。kintoneという協力なライバルが現れ、選択肢が増えてうれしいです。セールスフォースは10年ぐらい使っているのですが、運用の歴史が長いだけにデータ整理ができていない部分も増えてきており、運用が複雑になってきています。
また、セールスフォースでは事業部横断型のデータを多く管理しており、項目カスタマイズは中央集権的に管理しています。そのため、なにか新しいことをやろうとするとシステムチームに頼らないといけない煩雑さがあります。
一方、kintoneは事業部に閉じた情報管理であれば、事業部にまるごと任せられるような運用にしています。他にないシンプルさがそれを可能にしています。「kintoneは自分でできるらしいぞ」とみんなが使いたがっていますので、おそらくどんどん利用が広がっていくと思います。
人材採用のステータス管理をセールスフォースでやっていますが、セールスフォースほどの高度な機能がいらないので、kintoneへの乗せかえを検討しています。
訪問型障害児保育アニーという事業では、障がいをお持ちのお子さんの管理にkintoneを使うことを検討しています。どんどん利用するチームは増えています。
よく聞かれるのですが、セールスフォースと、どういうふうに使い分けていくかと社内で議論がわきおこっています。
kintoneは放っておいても事業部がどんどん勝手に使いこなしてくれますが、統一指針やシステム戦略は私たちが決めていかないといけないので、いま考えているところです。ここに書いてあるのは仮説です。
専門家には、もっと進んだ意見もあるかもしれませんが、いまのところデータの特性に応じて使い分けるのがいいかと思っています。
記録積み上げ型のデータ管理はkintoneが非常にいいと思っています。一方でリレーショナルデータべ―スの機能が必要な業務、複雑な計算などは、kintoneでも頑張ってプログラミングすればできますがセールスフォースのほうが有利だと思います。業務特性に応じて使い分けしたいと思います。導入と併せてブラッシュアップしていきます。
もともとフローレンスの駒崎代表とサイボウズの青野社長は、ワークライフバランスの対談をしたりと、理念レベルで共感しているところもあり、助けていただいています。
kintoneを使っていてわかったんですけれど、製品に青野さんが発信している理念がこもっています。宇野澤もいっていましたが、本当に使っていて楽しくなりますし、素晴らしい製品だなと思います。より広く、深く使っていって、自分たちのミッションを遂行していきたいと思います。
【関連イベント情報】
7月21日(木)開催 NPO法人のためのクラウド活用セミナー
(主催:サイボウズ株式会社、協力:NPOサポートセンター)
https://cybozu.smktg.jp/public/seminar/view/779
この記事を書いた人 : サイボウズ株式会社 『サイボウズNPOプログラム』
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