「子どもが売られない世界をつくる」を目指して活動する認定NPO法人かものはしプロジェクトは、カンボジア、インドを中心に子どもが売られる問題の解決に取り組む団体です。
カンボジアでは、最貧困家庭の暮らしを守るコミュニティーファクトリー事業により、村に継続的な仕事を生み出してきました。インドでは、被害者の回復を支援し、正義と権利を取り戻すための仕組み作りを実現しようとしています。
子どもが売られる問題を解決することなんて出来るわけがないし無謀だと、今でも言われることも少なくない。それでも活動の基盤を、寄付、募金、ボランティアの協力によって支えられ、活動は15年目を迎えています。
2015年の夏、毎月定額寄付者の「サポーター会員」増加に取組んでいた広報・ファンドレイジング担当マネージャーの小畠さんは、マーケティングオートメーション(以下、MA)のツールに注目しました。
MAツールを導入できたその年の年末には、寄付のお願いのメールマーケティングで、開封率80%、クリック率2倍と、従来の8倍の成果が出ました。
2018年2月現在は、MAツールの運用は広報・ファンドレイジング部の後藤さんが担当されています。MAツールの導入で、新たに見えてきたファンドレイジングの視点と、応援してくれている方々とのコミュニケーションで見えてきたことを、小畠さん、後藤さんから詳しく伺いました。
同じ内容、一律になっているオンラインのコミュニケーションに悩んでいた
MAツールを導入した、広報・ファンドレイジング担当マネージャーの小畠さん
サポーター会員の増加施策を検討していた2015年、ホームページ訪問者、主催イベントの参加者、名刺交換した方などの、色々なかたちで団体と接点をもった方々がいました。それにもかかわらず、関係作りまでできなかったと、小畠さんは振り返ります。
小畠「接点をもった方々とのコミュニケーションは、一律同じ内容の情報を届けている状況でした。そもそも情報をお届けできていなかった方もいると思います」
例えば、メールマガジンに掲載するボランティア募集、イベント参加者募集、寄付キャンペーンの案内などが、一律同じ内容で配信されていました。
小畠「本当は接点をもった方に合わせた内容で、情報を届けたいと考えていました。これから団体とどう関わりたいと思っているか直接お会いしてお話しできることがベストですが、物理的に全員とは会えません。何かしらのきっかけで接点をもってくれたその方々と、これからどう関わることができるかを知りたかった」
かものはしプロジェクトの支援者を増やすための大きな戦略は、イベントでの対面接点でした。イベントをきっかけに寄付、サポーター会員、ボランティアになっていただいていました。直接お会いして、その方に合った関わり方を見つけて、支援者になってもらうプロセスでした。
イベント参加者が、支援者になっていただく大きな道筋でしたが、週1回以上のペースで開催していたので、企画・準備・運営に業務リソースが集中していました。イベント申込者にリマインドメール、参加者にサンクスメールの送信を、毎回手作業で行っていました。
小畠「手作業による膨大な時間や時折起きてしまうメール配信ミスをどうにか解決しないと、個別にカスタマイズしたコミュニケーションまで手が回りませんでした。そんな時に紹介されたのがMAツールのMarketo (マルケト)でした」
紹介されたMAツールの Marketo は、メール配信の課題解決だけでなく、接点をもった方との関係構築を見据えることができるツールでした。またMA未経験の状況で、寄付・ファンドレイジングに力を入れている他のNPOが先行的に活用し、MAの知見を共有するMarketoユーザーコミュニティも魅力で、かものはしプロジェクトはMarketoを選びました。
コミュニケーションの理想形、業務改善を求めてMAツールを導入
MAツール導入を見据え、マーケティング戦略の整理が必要となった
2015年7月、サポーター会員増加をゴールに、メールマーケティングとイベント業務改善目指し、MAツール導入が決まりました。
小畠「マーケティングオートメーションは、何でもできるすごいツールだとわかりました。一方で、目的と手段がばらばらにならないよう、マーケティング戦略の整理に2ヶ月、システム導入に2ヶ月かけました」
マーケティング戦略は、元かものはしプロジェクトインターン生であり、当時マルケトでインターンをしていた小梁川さんと、小畠さんの2人体制で整理しました。週1以上の時間をかけて、MAツールの使い方、何ができるかを把握し、団体のマーケティングゴールとのすり合わせ、やりたいことを決めていきました。
サポーター会員をはじめとする支援者管理に、セールスフォースのシステムを活用しており、MAツールと支援者情報を連携する必要がありました。MAツールに紐づくよう、ためていた支援者情報の整理に1ヶ月要しました。MAツールとセールスフォースが連動する仕組みづくりは、ITプロボノチームに入ってもらうことができ、さらに1ヶ月で出来上がりました。
小畠「導入に4ヶ月かかったので、心が折れそうな場面もありましたが、2015年11月にメール配信がスタートできたとき、わたしたちが積み重ねたいと思い描いていたコミュニケーションの可能性がひらけました」
セールスフォースにも、接点をもった方の属性情報は入っており、カスタマイズしたメール配信もできる状況でした。ファンドレイジングの取組みを試行錯誤する同団体は、属性や寄付履歴だけではマーケティングにつながらない、接点をもった方との「行動履歴」が必要だと気づきます。セールスフォースに手入力の業務負担が大きすぎて実現できなかった、興味関心、行動パターンがMAツールに積み重なりはじまりました。
小畠「接点をもっていただいた方の心地よいタイミング、その方にカスタマイズした内容でコミュニケーションをしたかったのです。これまでは団体が伝えたいタイミングでメールマガジンなどを送っていました。でもこれからはその方が、ほしい情報、ほしいタイミングで送りたい」
接点をもった方と団体の今の活動の中で、コミュニケーションの良いタイミングを見ることができ、判断、実行をできるのがMAツールです。
MAツールに気づかされた、顧客視点と寄付者の気持ち
作成したドナーピラミッドとカスタマージャー二ーマップの違いを紹介
マーケティング戦略を整理する中、小畠さんは過去に作成していた「ドナーピラミッド」に違和感を覚えます。
MAは、顧客の行動変容を想定して、ステージ分け、カテゴライズを必要とします。小畠さんも同様に、接点をもった方を、潜在的な寄付者として整理しました。
イベントに参加してもらい、サポーター会員になると設計していたドナーピラミッドは、単純すぎではないかと思うようになります。いきなりサポーター会員になることもあれば、長くボランティアに参加してもらうこともある。ゴールが一つの、画一的なプロセスを積み上げるドナーピラミッドは少し違うのではと考えました。
MAツール導入に頻繁に活用される「カスタマージャーニーマップ」は、この疑問を解消するきっかけになりました。接点をもった方の行動パターンに応じて接点やマーケティング施策を描くフレームワークです。潜在的な寄付者の行動は単純ではないですが、一定法則の仮説は立てることができるのではと気づきました。
かものはしプロジェクトが実現したかった理想のコミュニケーションは、団体都合ではなく接点をもった方に合わせた顧客視点のものでした。ドナーピラミッドは接点をもった方に、団体目線で行動変容してもらうステップで作成していました。「カスタマージャーニーマップ」は名前の通り、顧客視点で作成します。
小畠「寄付マーケティングで陥りがちなことは、団体目線で、相手にいかに寄付してもらうか、お金をいっぱい出してもらうかばかり考えてしまうことだと思います。そうではなく関わりやすいかたちで関わってもらうをMAで実現したい。その方に合ったアクションで、長く一緒にお付き合いをしたいのです」
寄付者との関係管理、CRMをさらに進める
MAツールを運用する、広報・ファンドレイジング担当の後藤さん
MAツール運用が始まった2015年11月、メール配信をしてすぐに成果が出ました。MAツールなら同団体の「寄付入力フォーム」を一度訪問した方を対象に、寄付のお願いメールを自動配信できます。結果、メール開封率が80%、寄付のお願いページURLをクリックされる割合も2倍になりました。
一方で、予想もしなかったメールが送られてきて、驚いてしまった方からのご連絡をいただくようになりました。すぐに、興味関心の記録の取り方、メールの自動配信の設定、マーケティング設計の改善に着手しました。
後藤「MAツールの運用以降、寄付者との関係管理のCRMに、時間と費用を本格的に投資しています。気持ちよくサポーター会員を続けてもらい、関係を深めていくために、2週に1度のペースで改善を続けています」
問い合わせがあってから対応していた、サポーター会員との受け身のコミュニケーションを、CRMで能動的なコミュニケーションに変えていきたいと後藤さんは語ります。
サポーター会員の退会を検討する方にご案内するwebページ
向こうからの声を待つのではなく、MAツールを活用しながら、定期的にコミュニケーションをするようになったそうです。サポーター会員になってもらうのがゴールではなく、会員になると7つのステップメールをお届けしたり、退会を迷っている方にお電話でお付き合いいただける方法を一緒に相談したり、退会、休会、金額変更が選択できる専用のwebページをご案内しています。
小畠「短期的に成果を上げる、寄付の増額も必要ですが、届けるコンテンツを読んでもらい、コミュニケーションが生まれることで、世界の子ども問題への熱が全体的にあがっていき、結果的にその方の心地良い方法で応援してもらうことを大切にしています」
それには活動を知ってもらい、何かしらのアクションをしてもらうことが重要だと同団体は考えます。サポーター会員、ボランティア、職員になってもらう等、接点をもった方が、関わる方法を見つけて、関わる人が増えていくCRMを実現するのがMAなのです。
具体的なアクションにつながり視野と未来が広がってきた
MAツール の可能性を語る小畠さん(右)と後藤さん(左)
かものはしプロジェクトは、さらに大きなチャレンジを目指して、ともに挑む仲間を集めるため、MAとCRMを強化しています。
小畠「日々の事業、業務を回すのに手いっぱいでしたが、MAツールを導入したことで、7000人を超えるサポーター会員の皆さまとのコミュニティづくりができるのではないかと思うようになりました。マーケティングの力が向上したのはもちろん、サポーター会員とのコミュニケーションの未来を考えることができるのがMAだと思います」
後藤「MAツールがあることで、かものはしプロジェクトが実現したかったコミュニケーションの土台を作ることができました。イベント運営やCRMでやりたいことはまだまだあるので、もっと使えるようになりたいです」
本記事は「かものはしプロジェクト」、「株式会社マルケト」の協力により企画されました。