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若者支援NPOのデータ活用を推進する組織づくり | 第3回NPOによるICTサービス活用自慢大会 大賞&特別賞W受賞記念インタビュー

K2インターナショナルグループは、1988年から不登校・ひきこもり・発達課題など、生きづらさを抱える若者達の自立就労を支援してきた団体です。

神奈川県の横浜根岸を中心に、石巻市や藤沢市、海外にも事業所が広がり、グループ全体で100名強の職員が働き、約50名の当事者、利用者が活動しています。

今回、同法人は2013年から取り組み続けてきた、ICTツール活用の実践例を公開し、「第3回 NPOによるICTサービス活用自慢大会」で大賞を受賞しました。さらに本大会スポンサー企業の特別賞「インフォマート賞」を獲得しダブル受賞となりました。

特別賞をご提供いただいた株式会社インフォマートの中島さんと一緒に、素晴らしいプレゼンテーションをされたK2インターナショナルグループの岩本さん、金さん、大和田さんに、ICTサービス導入の7年のあゆみを詳しく伺いました。

現場業務の改善、社会への発信のために、紙管理では限界がある

特別賞提供の株式会社インフォマート 常務取締役 中島健さん(左)、受賞したK2インターナショナルグループの金伽耶さん(中央)、岩本真実さん(右)

K2インターナショナルグループは、2010年頃からグループ内で運営する事業所が増えていました。

また海外と日本での共同生活プログラムの提供による24時間体制の情報共有、スタッフの働き方も多様化する中で、場所と時間を選ばないメール管理、スケジュール管理、データ管理の必要性が高まっていました。

国内外に広がる、K2インターナショナルグループの各事業拠点の一覧マップ

岩本 : 対人支援の活動は情報共有が大事です。組織が大きく、複雑になっても、支援する若者たちの状況をよりタイムリーに共有することが、良い支援につながると考えています。

離れた事業所間の距離、スタッフが多様な働き方をする条件下では、紙のファイルによる情報共有やデータ蓄積では、業務効率に限界があります。また同団体は、外部への活動成果の発信に課題意識がありました。

岩本 : 2013年、厚生労働省の委託支援事業「地域若者サポートステーション」の有効性について示したいと、若者支援に取り組む10団体と連携をして実態調査をしました。その時に業務改善だけでなく、外部に成果を発信するためにも、現場のデータ蓄積の管理と必要性を実感しました。

この実態調査では、大量の活動記録を大学や調査機関に、データとして情報提供する苦労があったと岩本さんは振り返ります。

岩本 : 登録する若者の属性や来歴、支援内容や現在の状態などをエクセルにまとめる、という作業に大変な時間をとられました。そもそも表を埋められない対象者も多数います。紙ベースを主体とした膨大なデータをきちんと活かしきれていないことに、大きな課題意識を感じました。

K2インターナショナルグループが、調査を通じて獲得した視点・気づき

「現場の業務改善」、「社会への活動成果の発信」の2つの組織課題解決のために、現在の同法人では、様々なICTツールを活用した情報共有が進んでいます。

中島(インフォマート) : NPO活動をデータ化した業務改善がとても素晴らしいですね。さらに、社会に向けた活動成果の発信、行政と自治体へのコミュニケーションにまでつなげる取り組みに驚きました。これらを実現するPDCAサイクルの動かし方が気になります。

岩本 : 目的が業務改善だけでは、PDCAサイクルを動かすのは後回しになってしまうと思います。私たちも、外部への発信をするきっかけがあり、データ活用の必要性が高まりました。現在も、補助事業や委託事業を受けることが社内データベースの見直し、改善の動機になっています。

データ活用について、若者支援の根源的課題と、現場の危機意識があると岩本さんは指摘します。

岩本 : 若者支援は、長い歴史がありながら、その手法は各団体が持つノウハウに頼る部分が多く、きちんと体系化、言語化されたものが少ないです。

行政主導の事業が把握しているのは、それぞれが行った支援の「数」でしかありません。支援の本質に迫れていない点、それぞれの支援団体が把握している膨大なデータを活用できていない点など、多くの課題を抱えています。

調査のプロジェクトを通じて、若者支援における課題を解消するために、データベースの必要性を強く意識するようになります。

岩本 : (1)データを蓄積すること。(2)蓄積したデータがエビデンス(根拠)となり得る、目的を持ったデータの把握・取得を行うこと。(3)蓄積したデータを、事業に活かし、対象である若者に還元すること。この3つは、何をもってしても、今すぐにでも、始めていかねばならないと考える様になりました。

K2インターナショナルグループが考える「若者支援」のデータ活用の課題

ITソリューション部を発足し、ICTツールの全社浸透をめざす

K2インターナショナルグループは、2013年12月のOffice365 (現 : Microsoft 365)を機に、この7年で5つのICTツールを導入しています。全社で活用するICTツールは5サービスです。

データ蓄積に、salesforce と、最近はスタッフの様々な業務管理に、サイボウズ kintone も使いはじめました。社内コミュニケーションに、Office365、slack、zoomです。

日常的に現場に入り、若者と接し、PC前にはほぼ居ることのないスタッフも含め、全社に活用が広がっています。

金 : 現場のオンタイムコミュニケーションツールとしてslackを、ミーティングツールにzoomを使い、クラウド管理で事業所間連携を深めています。

また業務日報の共有にOffice365を使用し、業務上で得た情報は電子カルテとしてsalesforceに蓄積しています。蓄積、共有した情報は、スタッフごとに権限はあるものの、直接若者やこども達の支援に活かせる様に、モバイルでの逐次検索、参照ができる形になっています。

K2インターナショナルグループのICTツール活用のシステム構成図

中島(インフォマート) : 全社で導入、活用を進めるプロセスをお伺いしたいと思います。紙での記録業務からの変更は、企業活動においても大変です。みなさんは、どうやってそれを乗り越えて、ICTツール活用を浸透できたのでしょうか。

岩本 : ICTツール導入は、一時的に各事業所の相談員にとっては、仕事が増えてしまう可能性があり、負担をかけてしまうことになります。

こまめなフィードバックをするために、気軽なお茶会のような場を企画し、現場のスタッフにデータ蓄積と活用の成果を見せ、支援現場への還元を伝えていきました。このような期間を経てsalesforceであれば、1年をかけて全社浸透に取り組みました。

K2インターナショナルグループのICTツール活用の一覧

中島(インフォマート) : 自慢大会のプレゼンテーションで、みなさんの「良くしたい」気持ちを痛烈に感じていました。ITソリューション部が1日24時間、四六時中考えて、動いている様子が目に浮かびます。

各ICTツールを選んだ決め手は、NPO割引のプランも大きかったと伺っています。弊社も「BtoBプラットフォーム 請求書」のサービスをNPO特別価格で提供を開始しました。各ツールを選んだポイントを教えてください。また具体的な導入プロセスはいかがだったのでしょうか。

大和田 : ICTツールを使うことへのメリットがまだ社内に浸透していなかったので、salesforce と Office365 は、初期費用なく無料で利用できるのはありがたかったです。今は必要性を認識してもらっているので、予算を使っても、活用しようという社内の了解がとれるようになりました。

また、個人情報を多数扱う仕事なので、セキュリティに強い、個人情報管理ができることが、ツール選びのポイントになっています。

K2インターナショナルグループの、ICTツール導入と活用は office 365 からはじまります。

金 : データ活用の中心となっている salesforceはとてもハードルが高く、実は後回しの導入になりました。まずは、ICTツールのダウンロード、インストール、活用までを効率的に、全社的に実施するために、「ITソリューション部」が発足されました。

大和田 : ITに強かった自分が中心となり、現場のニーズを聞きながら、岩本さん、金さんらと一緒に使えるITツールを選定していき、実際の運用までをサポートしています。今はITに興味がある若者も部下として働いてもらっています。

まず私たちITソリューション部が着手したのが、Office365の導入です。それまではメールソフトのBeckyを使用していました。クラウドの言葉になじみがなく、日常的にPCを利用しないスタッフも含めて、Office365のメール機能を活用した「日報提出」からはじめました。

1か月前の事前告知を経て、2013年の12月に、Office365への一斉移行を実施します。

大和田 : 多少のトラブルはありましたが、場所を選ばないOffice365にメリットを感じてもらえたようで、全てのスタッフが活用するメール機能だけではなく、会議申請やスケジュールの共有も含めて、他の機能も少しずつ浸透していきました。

ICTツールに馴染みのない団体は、毎日使うツールからはじめることがポイント

それぞれのスタッフがクラウドツールに慣れていき、またITソリューション部がクラウドの情報管理と社内に浸透させるノウハウを学習したところで、2014年下半期にいよいよsalesforce導入に着手します。

導入前には「どんなデータをどんな風に蓄積するのかを検討すること」「salesforceの機能や設定方法の学習すること」を同時進行しながら、準備をしていきます。

金 : 蓄積するデータの検討については、団体内の既存の報告書類や取得情報などを把握し、各スタッフの知見や過去の調査、将来的に実施したい調査と見せたいデータを集めてまとめました。

機能や設定方法の学習については、NPOサポートセンター主催のsalesforce 研修の受講、個別コンサルティングを受けて、積極的に知識を習得していきました。

入念な準備段階を経て、2015年4月より、電子カルテとしてのsalesforceの全社導入を実現します。

金さんは、準備段階である設計や学習時よりも、現場でしっかり活用してもらうためにこそ、知恵と工夫が必要だったと振返ります。

金 : 活用を浸透させるために、電子カルテ化の必要性や将来的にできることなどをITソリューション部で資料を作成し、各事業所で直接プレゼンし、理解を求めていきました。

さらに、ダウンロードやインストール方法、また登録などの、それぞれのスタッフに必要な作業を手順マニュアルで可視化し、場合によってはITソリューション部が代理で行いました。

導入後も、細かい困りごとを吸い上げるために、ITソリューション部は定期的に現場を回っています。

金 : なるべく現場スタッフの負担が少なくなるようにしています。これまでの業務に少しプラスする形でワークフローに組み込み、無理なく活用できる環境を作ることを心がけています。

ITソリューション部の献身的なサポートによって、ICTツールの導入と活用が実現

salesforceの活用が浸透したことにより、できるようになったことが増えたと岩本さんは語ります。

岩本 : 私たちが支援する若者一人をとらえたとき、関わるスタッフはもちろん、受ける支援プログラムの内容も、事業所を超えていきます。それらの情報がクラウド上で一つにまとまり、検索や参照が容易になることで、日常の業務に直接的な効果をすぐに実感してもらうことができました。

取得すべきデータは、支援に活かすためのものという認識が団体内で高まったことで、必要なデータを抜け漏れなく取得できるようになりました。

岩本 : 調査など大きな目的を持ったデータ分析のみならず、週ごと、月ごとなど細かく取得したデータの簡易分析が可能となり、細かい業務改善が行われるようになりました。

特に、これまで「支援記録」として吸い上げることも、報告することも容易でなかったデータの取得が進みました。面談やセミナーの場面だけではない、若者の様子や行った支援を記録し、蓄積、可視化することができています。

K2インターナショナルグループのICTツール導入の成果

データの取得と蓄積の重要性を、多くのスタッフに認めてもらえたことが、ICTツール活用の広がり、社内でICTツールを受け入れる組織文化につながりました。

大和田 : Office365と、salesforceの全社導入と浸透後、 コミュニケーションツールのslackやzoomの活用へと進めていきました。

slackとzoomの導入にも知恵と工夫を必要としましたが、salesforce導入時ほどの苦労はなかったようです。

岩本:働く場所や働き方が違っても、それぞれの現場で得た情報や取得したデータを、「オンタイムに共有」し、「取捨選択した上で蓄積」することこそが、私たちの事業の根幹である、課題を抱えた若者たちに対する、より適切な支援につながるのだ、という認識が多くのスタッフに根付き、ICTツール活用が新たな社内文化として醸成されていった結果だと思います。

現場に還元できるデータ活用で、若者支援の未来を見据える

Office365からはじまり、salesforceの活用と浸透で醸成された社内文化

ICTツールを活用する社内文化の醸成により、ツール活用は広がり続けています。

大和田 : これからも1つ1つのツールを使い込み、業務効率化を進めていきます。私は支援対象である若者と直接接することがほぼありません。だからこそ、現場スタッフが効率よく仕事ができるようにすることで、若者に還元していきたいと思っています。

salsforce導入後も、調査プロジェクトを実施し、様々な角度から仮説、実証、フィードバック、改善のサイクルを回し続けています。

金 : 私たちの活動が、「若者の自立就労」というひとつの社会問題を解決する為のものであると考えたときに、蓄積したデータから見える事とは、K2グループが32年の歴史の中で実践してきた若者支援のノウハウそのものであると考えます。

今は、蓄積したデータをさらに磨き上げて、現在より積極的に、補助金や助成金、寄付金取得、更には政策提言を求める為のエビデンスとして、共通言語として、データを外部に発信していくことに、これまでより一層尽力したいと考えています。

社会の課題解決に取り組み、現場で動くスタッフが中心に運営している、多くのNPOにとってICTツールの導入と活用は多くのハードルがありつつも、得られる価値が大きいとK2インターナショナルグループのみなさんは語ります。

岩本 : 大変な苦労を乗り越えてでも、ICTツールを導入する価値はあります。それは業務の効率化や能率化にとどまりません。団体の活動の「意義」を、「めざす社会の姿」を、より強く社会や外部の人たちに示すことを意識したときにこそ、より一層その価値は高まるのだと思います。

コロナウイルスの影響でリモートワークが注目されています。これからもITソリューション部は、ICTツールの展開に必死でついていきつつ、私たちの事業に還元していきたいと思います。

中島(インフォマート) : 全社的なICT活用のために、ITソリューション部の献身的な姿勢がとても重要で、今回のインタビューでそれがとても伝わってきました。データ活用等、まだまだ夢は膨らみますね。引き続き、頑張って日本をともに良くしていきましょう!

ITソリューション部 部長の大和田さん(中央)、左から時計回りに部員の金さん、藤田さん、植竹さん、岩本さん。

団体名 K2インターナショナルグループ
設立年月日 1996年1月
スタッフ数 常勤約100名(2019年度)
webサイト https://k2-inter.com
事業概要 ひきこもりや不登校等の課題を抱えた若者に対する自立就労支援を目的とした
相談事業所の運営、共同生活を中心とした各種プログラムの提供、働く場の創出、
海外留学プログラムの実施など。

本記事は「株式会社インフォマート」の提供により企画されました。