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紙からITで年間600時間の残業とコスト削減!保護者の共感度が向上した民間学童 Chance For All | NPOによるICTサービス活用自慢大会 大賞受賞記念インタビュー

「第1回 NPOによるICTサービス活用自慢大会」で大賞を受賞したNPO法人Chance For All 代表理事の中山勇魚さん

Chance For Allは、東京都の足立区と墨田区を中心に8校舎で、30人のスタッフで約200人のこどもの成長を支援している学童保育を運営するNPO法人です。

生まれ育った家庭や環境でその後の人生が左右されない社会の実現を目指し、子どもの目線を大切に放課後の居場所づくりを行っています。

2018年1月から紙でのおたよりや連絡帳、請求書をIT化したところ、残業が年間600時間ほど削減でき、保護者とのコミュニケーションの質と現場スタッフのモチベーションが向上しました。

さらに権限移譲が進みチーム力も向上し、3か月後にはICTサービス活用自慢大会で大賞を受賞。賞金30万円を獲得しました。

インパクトの大きい事例を紹介してくださった中山代表にどのようにIT化を進めたのか詳しくお話を伺いました。

2018年4月に開催された第1回NPOによるICTサービス活用自慢大会での発表資料

 

事務作業からの解放と保護者への情報共有を求めて

grand_prize_winner_interview (5)手作りの装飾や天然杉の床でぬくもりあふれる「CFAKids 亀田校」

中山 : 導入する前は2つの大きな問題を抱えていました。

1点目は保護者との情報の共有方法です。保護者をサービスの消費者とするのではなく、保護者と一緒にこどもたちを育てるという価値を実現するための情報共有手段として、週一回おたよりを出していました。しかし印刷や配り忘れがないかのチェックを要していましたし、保護者の手に渡っても確認忘れや紛失などの問題がありました。

2点目は、職員の残業の問題です。おたより作成など事務作業はこどもたちのお迎え後になり、深夜に残業が発生していました。

8割は19時前にお迎えがきますが預かりは最長22時までです。業務の価値を十分に理解する職員たちも、終電での帰宅が続いてしまうとモチベーションが低下しがちでした。

中山さんは「保護者への情報共有」と「事務作業からの解放」の両方の改善を目指して、IT活用の検討をはじめました。

たった一ヶ月で紙からPC & スマホへ移行

grand_prize_winner_interview (1)

2017年5月から、組織内部の情報共有にNPO向けに優待価格のあるサイボウズ社のkintone を導入。

Excelで管理していたものを置き換えることからはじめていき、便利さが浸透していくと消耗品がなくなると通知がくるアプリを現場スタッフがつくるようになりました。

システムエンジニアだった中山さんは、さらなる自動化の方法をkintoneのデベロッパーズネットワークで探すうちに、外部関係者にアクセス権限をしぼってkintone上のデータを共有できるソニックガーデン社のじぶんページをみつけました。

中山 : もともと保護者へのおたよりとは別に、組織内部向けにこどもたちの日々の保育記録を毎日つけていたので、保護者ひとりひとりに、じぶんページのアカウントを持ってもらい、保育記録を直接みてもらえばおたよりの作成・印刷・配布業務がゼロにできると強いイメージが浮かびました。

2018年1月、おたよりと保育記録のIT化をスタート。紙の情報共有と並行稼働しながら、現場スタッフと保護者に1ヶ月の試行期間の実施を呼びかけました。

中山 : 現場スタッフには、事務作業の短縮化のメリットを伝えました。おたよりの印刷、インク管理、配布忘れがゼロになり印刷費も削減できます。

保護者には、週1回のおたよりが毎日の保育記録となることで、よりわが子の生活や成長を感じることができるというメリットをしっかりと説明しました。

試行期間内に、全ての家庭がじぶんページに登録ができるよう、中山さんは日々現場スタッフに登録状況を共有し、保護者への登録確認の声掛けを徹底しました。

中山 : 保育記録だけだったら全然みない家庭もありますが、請求書や口座引き落とし通知書も確認できるようにしたので全家庭が1か月後には登録できました。保護者からの評判も高く、紙での情報共有をやめることができました。

コストと残業を削減、保護者の共感度は向上

grand_prize_winner_interview (2)保護者との情報共有に使われているじぶんページの管理画面

中山 : 職員の残業時間は一気に減らすことができました。団体として600時間の残業時間削減を見込めています。以前は終電になることも多かったのですが、こどもたちのお迎え終了後、30分程で退勤できるようになりました。

保護者とのコミュニケーション機会を増やすことは念願でしたが、機会は5倍になり反響が増えました。

紙のおたよりのころはモノクロ印刷でしたが、カラーで写真を毎日見られるようになりました。離れて暮らす単身赴任中のお父さん、おじいちゃんやおばあちゃんも毎日の様子を見ることができるようになったと喜びの声をいただいているようです。

中山 : 連絡帳も紙の頃は「こどもが在室している時間に確認/返事を書かなければならない」「お休みの際には確認できない」などの課題がありました。Web化することで、タイミングや紙幅の制限を気にせずに、丁寧に返信できるようになりました。

保護者からも積極的な書き込みがあります。kintone はスマートフォンでも確認できるので、職員も保護者も隙間時間でやりとりができるようになりました。

新しい保育記録のプロセスでは、職員が kintone に保育記録を記載するとマネージャーに通知がいきます。確認し承認ボタンを押すと自動的に保護者がじぶんページで自分の子どもだけの保育記録が閲覧できるようになりました。

共有する部分としない部分はわけています。日々の活動や成長は全体共有、個別のトラブルや課題は個人情報にもなりますので全体には共有していません。個別の成長や課題は保護者面談の際に使用する保護者面談シートで共有しています。

現場業務を効率化し続けるkintone

grand_prize_winner_interview (3)スタッフ間の理念共有も大事にしている

こどものお休みや緊急連絡の方法も、じぶんページで一本化されました。これまでは電話やメールや連絡帳などのばらばらの手段でやりとりでした。

中山 : 保護者面談シートもkintoneにし、今までの履歴も閲覧できるようになりました。連絡先やアレルギー情報も保護者が更新できるようになったので常に最新の情報を共有できます。まさにいいことづくめです。

現場対応も大きく変化しました。例えば公園でこどもがけがをした際に、病院にこどもの個人情報ファイルを携えていたのが、スマートフォンで情報を検索できるようになりました。

遠出のキャンプの際には100人以上のこどもたちのアレルギー情報のファイルを抱えていたのも、スマートフォンで確認ができるようになりました。

中山 : こどもたちの「ライフスキル」の成長記録や組織づくりにも活用を進めていく予定です。職人技になりやすいこども・保護者対応のノウハウ化や基準作りもしていきます。

代表が全てを抱える状況から権限移譲が進む

grand_prize_winner_interview (4)経費精算やふりかえり、インシデント管理、勤務実績、スケジュールもkintoneで共有している

マネージャー育成の大きな一歩にもなりました。ICTツール導入以前は中山さんが、約200人のこどもたち、スタッフ20名以上、8校舎の保育記録の全部を確認、承認していました。

中山 : 校舎の場所が物理的に離れていることや、職員の多くが保育関係であり一般的な会社員に比べるとITリテラシーがあまり高くないのが課題でしたが、ICTツールを活用できる環境と業務プロセスさえ作ってしまえば、ITリテラシーを上げなくとも、他のスタッフにも自分と同様の業務ができることを実感しました。

今ではみんな普通にkintoneを活用しており、私ひとりの人力作業から、マネージャー職をつくり、現場の権限移譲を進めるきっかけになっています。

スタッフ間の360度評価や39Beer(サンキュービール)というバーチャルにビールを何杯おごるという形で感謝を送り合う仕組みにも使っています。

ICTツールの活用はこどもの成長に貢献するスタッフのさらなるモチベーションの向上につながったと中山さんは振り返ります。

中山 : 保育記録を毎日届けることで、こどもの成長へのスタッフの想い、日々の工夫を保護者に伝えることができるようになりました。保護者から感謝の声が届く機会も増え、スタッフのモチベーションの向上につながっています。

他の校舎はどんなふうにやっているのかという勉強にもなります。例えば、けんかが多いときは、お互いの気持ちを伝えあうプログラムをやるといいよねといったように経験やノウハウが参考になっています。

kintoneは組織づくりの核となっています。ありとあらゆるものが効率化できたし、見える化ができました。こどもと保護者にとってもスタッフにとってもいい。 kintone とじぶんページのない環境にはもう戻れないという感じです。

ICTツールの活用は、事務作業の効率化や現場に必要な情報の可視化を実現し、提供するサービス・活動時間の充実、組織づくりの強化になくてはならないものになっています。

大賞を受賞した Chance For All のICT活用事例は、他の分野にも参考になる点が多いのではないでしょうか。

団体名 特定非営利活動法人 Chance For All
設立年月日 2013年4月
組織規模 75,000,000円(2016年度)
スタッフ数 常勤19名(2016年度)
webサイト https://chance-for-all.org
事業概要 生まれ育った家庭や環境でその後の人生が左右されない社会の実現を目的として
小学生の放課後の居場所づくり(学童保育)を行う。

本記事は「サイボウズ チーム応援プロジェクト」の提供により企画されました。