みなさんの組織や団体では、クラウド活用はどのぐらい進んでいますでしょうか。すでに積極的に活用している方も、気になっているが活用にはまだ踏み切れていない方もいらっしゃるのではと思います。
総務省の「令和4年通信利用動向調査の結果」によると、『クラウドサービスを利用している企業の割合は上昇傾向が続いており、7割を超えている』という結果が出たそうです(*)。これは企業対象の調査ですが、非営利セクターやソーシャルセクターでも同様に、クラウドを利用する組織・団体は増えてきているのではないでしょうか。
(*)出所:令和4年通信利用動向調査の結果(2023年05月29日 総務省)
さて、本記事はAWS活用事例を紹介する連載の第2回目。前回はデジタルツールやクラウドを活用しながら、アナログからデジタルへの移行を推進されている団体を取材し、DX推進の背景や今後の可能性をお伺いしました(前回の記事はこちら)。
今回ご登場いただくのは、大阪YMCAの船戸さんと代慶(よけい)さんです。
大阪YMCAは1882年(明治15年)創立、0歳から100歳以上までを対象に幅広く事業を展開しています。
幼稚園・保育園の運営など子どもの成長に寄り添う「子育ち・子育て」の支援事業、幼児から成人まで様々なスポーツ・体育・野外活動などのプログラム、また高等学校や発達支援教育、専門学校、日本語学校、グローバル教育等によって「ユースエンパワーメント」を推進する事業、シニア世代を中心にした健康や生きがいサポートへの取り組みや介護施設・サービスの提供など「生活クオリティの向上」のための事業など、さらには、ボランティア活動を推進して「社会に貢献」する事業など、シニア世代を中心にした健康や生きがいサポートへの取り組みや介護施設・サービスの提供など「生活クオリティの向上」のための事業など、一人ひとりに寄り添ってともに生きる社会をつくっていく活動を行なっています。
大阪YMCAが運営する幼稚園の様子《画像提供:大阪YMCA》
船戸さんと代慶さんは、組織全体のインフラを整備するICT室に所属し、今回の記事のテーマでもある「基幹系システムのクラウド移行」も担当されています。
大阪YMCAにとってクラウド移行の大きな目的の一つは「コスト削減」だったそうで、実際に約40%程度のコスト削減を実現されているとのこと。
本記事では、室長の船戸さん、エンジニアの代慶さんのお二人に、クラウド移行時の様子や今後の展開についてお伺いしました。クラウド活用を検討されていらっしゃる皆さんにとって少しでもヒントになれば幸いです。
(*)冒頭の写真で、左が代慶さんで、右が船戸さんです。
・学校法人大阪YMCA ICT室 室長 船戸 輝久さん
・学校法人大阪YMCA ICT教育センター 専任講師 代慶 重文さん
■聞き手:
・アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター アカウントエグゼクティブ 上田 圭祐さん
・基幹系システムをレンタルサーバーからクラウドへ
・「クラウド移行」「外部に依頼していた保守を自社で巻き取ること」で約40%のコスト削減!
・クラウドが本来持っている利点を活かして、データ分析・活用を推進していきたい
・クラウドをうまく活用しながら、社会にさらに貢献できる団体へ──
基幹系システムをレンタルサーバーからクラウドへ
上田 : 本日はよろしくお願いします。大阪YMCAでは基幹系システムをAWS(*)に移行されたということで、まずはクラウド移行前の状況についてお聞かせいただけますか?
(*)アマゾン ウェブ サービス (AWS) は、世界で最も包括的で広く採用されているクラウドプラットフォームです。世界中のデータセンターから200以上のフル機能のサービスを提供しています。急成長しているスタートアップ、大企業、主要な政府機関など、何百万ものお客様が AWS を使用してコストを削減し、俊敏性を高め、イノベーションを加速させています。
代慶 : 一般的なデータセンターで大阪YMCAの区画を借りて、その中にレンタルサーバーを借りていました。業者にシステムの構築を依頼し、財務や人事のシステムを動かしていた、というのが移行前の状況です。
私たちの組織に限らない話だと思うのですが、IT関係に詳しい人が少なかったこともあり、業者に任せっきりでつくっていただいたようなシステムが動いていました。それも大手のソフトというわけでもなく、私たちの業務に特化したかたちのシステムが動いていました。
上田 : 参考までに、人事のシステムではどのくらいの人数の人事管理をされていますか?
船戸 : まず前提として、大阪YMCAには「公益財団法人 大阪YMCA」「学校法人 大阪YMCA」「社会福祉法人 大阪YMCA」など、事業や活動に応じてそれぞれの法人格を有しています。その中で公益財団法人と学校法人を合わせて、900人近くになります。
また働き方も常勤・非常勤など様々で、中には法人をまたいで働いている方もいらっしゃいます。ですので、市販されている一般的な人事ソフトが想定しているケースだけでは対応しきれない部分についてはカスタマイズや独自開発したものも用意してあわせて使っていました。
上田 : ありがとうございます。クラウド移行時の様子もお聞かせください。
船戸 : 大阪YMCAとしては、クラウド移行するのであれば「AWS」を導入したいと考えていました。移行作業については一部、外部にお願いをしましたが、移行の際の業務分量について代慶に見積もりを出してもらった上で、そのほとんどを自社で行ないました。
代慶 : 具体的には、すでに動いていたシステムをクラウドに持ってくるところから始めました。加えて、今まで依頼していた業者のサポートが切れかかっている状態のものも多かったため、移行のタイミングを活用して、ソフトのバージョンアップや入れ替えも並行して行ないました。
大阪YMCAのシステム構成図。レンタルサーバーからAWSへ移行《画像提供:大阪YMCA》
「クラウド移行」「外部に依頼していた保守を自社で巻き取ること」で約40%のコスト削減!
上田 : クラウド移行の目的についてもお聞かせいただけますか?
代慶 : 移行の大きな目的の一つは「コスト削減」でした。当時データセンターの契約期間の更新が迫っていました。契約の金額が大きいこともあり、このタイミングでAWSへの移行に踏み切れるんじゃないかという話が出ていました。
船戸 : AWSへの移行の判断をする上で、まずは代慶がコスト削減の試算を行ない、おおよその予算感を把握した上で移行に踏み切りました。外部に依頼していた保守の費用を抑えられるようになり、クラウド移行後、約40%程度のコスト削減を実現しています。
上田 : コスト削減について具体的な数字まで出していただきありがとうございます。保守費用が抑えられたということで、保守の業務について詳しくお聞かせください。
代慶 : 特にインフラ部分の保守をICT室で巻き取ったかたちになりました。データセンターよりAWSで管理する方が、管理工数としてはだいぶ楽になり、負担が軽減されました。
インフラ部分の保守というのは色々あります。例えば、新しい拠点をつくるときに「どういうネットワークを入れるのか?」「社内ネットワークに繋ぐのか?」「(現場で幼稚園の先生が)有線でPCを使うのか?それともiPadをそれぞれ手元で持つような業務のスタイルなのか?」「無線を入れるのか?入れないのか?」といったことを検討しています。また私たちの組織の歴史が長いため、機器の経年劣化しているものも多く、使えなくなりそうなネットワークの保守も含まれています。
船戸 : 端末の管理も行なっています。現在、例えばPCだけで500台以上あります。
代慶 : ちなみに基本的にはICT室で保守を巻き取っているといっても、問題を各現場から聞いて、「その問題は、ICT室で対応できるものなのか?それともメーカーにお願いしないと対応できないものなのか?」をICT室の方で判断し、後者の場合は外部にお願いするというかたちになります。
上田 : 保守費用が抑えられたこと以外に、AWSを導入していかがでしょうか?
代慶 : 以前は社内ネットワークからしか業務データにアクセスできなかったのですが、AWS導入によって出先からでもアクセスできる仕組みをつくれるということで、さっそく整えました。元々現場からも要望があったものでしたので実現できて良かったです。
船戸 : AWS導入によって、各現場の中で業務改善できる可能性が広がりました。一方で現場では、クラウドを活用することでどんな業務改善ができるのか、なかなかイメージしにくいというのも事実です。ですので定期的に、ある特定の部門にフォーカスしてそこのスタッフたちと、「業務の中でICTで解決できそうなこと」を話し合いながら、場合によってはタスクチームもつくって業務改善していく取り組みも実施しています。
上田 : 現場と直接コミュニケーションをして、時にはタスクチームもつくり、現場とICT室とのギャップを埋めながら、業務改善も行なっていらっしゃるんですね。
YMCAはAmazonと連携をしてITやプログラミングを学ぶ機会を提供《画像提供:大阪YMCA》
クラウドが本来持っている利点を活かして、データ分析・活用を推進していきたい
上田 : クラウドに移行して良かったことや今後見据えていることをお聞かせください。最初に代慶さんにお伺いできればと思います。
代慶 : まずは、当初目的としていたコスト削減は想定通り実現できて良かったです。
今後見据えていることでいうと、クラウドが本来持っている利点や機能を業務や現場でもっと活かしていくことを推進していきたいです。例えば、各現場で働いていらっしゃる皆さんの業務データの分析にも着手したいです。今はまだデータを分析・活用するところまではできていないので、改善サイクルのようなものをつくれるところまで持っていきたいと思っています。
それと並行しながら、使う側のレベルアップも必要だと考えています。各現場でお仕事されている皆さんに対して、「各自が取り扱う情報やデータに関するセキュリティの考え方」について知っていただくことが必須になってくると考えています。
上田 : 業務データの分析・活用というのは例えばどんなことを想定されていますか?
代慶 : 色々なものがあります。例えば、大阪YMCAでは様々なタイミングで募金を実施しています。「どの地域・どの年代の方々に、どういったアプローチ方法をした場合に、より多くの募金協力をいただけたのか」といったデータをうまく集約し、しっかりと見える化していきたいです。
他には、これは業務データというわけではないのですが、幼稚園から中学・高校、そして特別養護老人ホームまで、0歳から100歳以上までを対象に幅広く事業を展開している関係で、携わってくださった方と関わるスパンが長くなります。ちなみに大阪YMCAでは「会員さん」とお呼びしています。
事業や活動に応じてそれぞれの法人格を有していますので、同じ会員さんであっても、年代によって関わってくる法人や部署も変わってきます。現状はデータを一元化できていないのですが、大阪YMCAとしては、「一人ひとりに寄りそう伴走サービス」といったことを想定してサービス展開をしていますので、会員さん一人ひとりのデータを一元的に管理できるようなシステムにしていきたいと考えています。
上田 : 大阪YMCA様の活動の発展、社会課題の解決や世の中を良くしていくために、新しい方々の獲得であったり、0歳〜100歳まで長いスパンでお付き合いがあるという中で、事業や法人をまたぐとデータの一元化が難しいというのは、多くの団体さんがご苦労されていらっしゃるポイントかと思います。大阪YMCA様は非営利の中での業界のリーダーとして、今後も我々、一緒に何かお役立ちできればと考えております。
クラウドをうまく活用しながら、社会にさらに貢献できる団体へ──
上田 : 最後に船戸さんから、クラウドに移行して良かったことや今後見据えていることについて、お話をお願いいたします。
船戸 : わたしも、「コスト削減が思った以上に実現できたこと」について良かったと感じています。
今後のことを考えると、私の意見になりますが、「すべてのインフラがクラウドに吸収されていくのではないか」と感じました。今以上に社会全体としてクラウド活用が進んでいった時に、自分たちの組織もクラウドに対応していないと様々な場面で困ってくるのではないかと考えています。
AWSでは新しい機能が絶えず追加されていきますので、そこに遅れを取りたくないという思いもあります。もちろんクラウドに限らず、最新のテクノロジーやサービスが世の中に次々と登場していますので、それらを自分たちの業務の中で活かしていく時代にもなっていくと思います。私たちも柔軟に対応していきたいところです。
そういう意味では、今回お話したクラウド移行により、その土台が整ってきたということでもあります。今後どのように展開させていくのかということは、私たちの今後の課題でもありますが、一方で楽しみでもあります。AWSを中心としてクラウドをうまく活用して、業務をさらに拡張・効率化させながら、社会にさらに貢献できるような団体になっていきたいです。
上田 : 船戸さん、代慶さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
AWSでは、大阪YMCAのようにクラウド移行を検討する団体向けに、PDF資料「初めてのクラウド for NPO」を配布しています。こちらのリンクをクリックするとPDF資料がダウンロードできます。
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本記事は「アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社」の提供により企画されました。